年賦弁済の決定に伴う個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ

Q.得意先甲社に対する売掛金500万円のうち、抵当権で担保されている200万円を除いた300万円について、50万円を切り捨てた上で20万円を受け、その後9年間にわたり年20万円ずつ計180万円を受けることで、残りの50万円を切り捨てる協議決定がされました。この場合、該当する売掛金に対する貸倒引当金の繰入れ限度額はどうなりますか?

A.このケースでは、売掛金に対する貸倒引当金の繰入れが可能ですが、担保されているために取り立てる見込みがある200万円は、貸倒引当金の繰入れ対象から除外されます。次に、債権者集会の協議決定で切り捨てられた50万円は、貸倒損失として損金に算入できます。残りの230万円については、その決定日の属する事業年度終了日の翌日から5年を経過する日までに弁済される金額とそれ以外の金額に分けて考え、後者について貸倒引当金を計上できます。具体的には、5年以内に弁済される予定の100万円(20万円×5年)を除いた130万円が貸倒引当金の計上対象となります。この130万円は、未来の弁済が予定されているものの、その回収の不確実性が高いため、貸倒れリスクを考慮して貸倒引当金を繰り入れる必要があります。

割引手形を個別評価金銭債権とする貸倒引当金の繰入れの可否

Q.取引先A社が手形交換所において取引停止処分を受けましたので、同社に対する個別評価金銭債権に対して貸倒引当金の繰入れをしようと思います。ところが事業年度終了の日における同社に対する金銭債権は、割引手形だけですので、この貸倒引当金の繰入れ対象となる個別評価金銭債権が貸借対照表に資産として計上されていません。どのようにすればよろしいですか。

A.割引手形を含んだ受取手形は、法人が持っている金銭債権の一部であり、これに対して貸倒引当金の繰入れが可能です。この手続きは、財務諸表の注記でその手形の金額が確認できる場合に適用されます。事業年度終了時に割引手形だけが残っている場合でも、その残高に対して貸倒引当金を繰り入れます。ただし、割引手形の買戻しの有無は、貸倒引当金の繰り入れには影響しません。貸倒引当金を繰り入れる際、債権が貸借対照表に計上されていないのは問題なので、買戻し金額を未払金として記録し、対応する資産を長期滞留債権として計上することをお勧めします。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金など

Q.過年度に繰入事由が発生している場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の取り扱いはどのようになっていますか?また、繰入限度額を超過した分と不足している分を通算して計算することは可能ですか?

A.個別評価金銭債権の貸倒引当金について、法人税法施行令によれば、過去の事業年度に繰入事由が生じても、それが事業年度終了時に存在すれば、当該事業年度に繰入れをすることができます。事由が以前の事業年度に発生していた場合でも、その年度まで継続して計上されている必要はありません。各事業年度終了時における個別評価金銭債権の状況に応じて、貸倒引当金の繰入限度額が確定します。

また、甲社と乙社の貸倒引当金繰入額の過不足を通算することはできません。法律に基づき、個別評価金銭債権ごとに損金計上する金額を定めており、この限度額を超えた繰入額と不足分を他の債権と通算することは認められていません。また、一括評価金銭債権やゴルフ会員権の預託保証金など、個別評価金銭債権に該当しない債権で設定した貸倒引当金との通算もできません。ただし、税務調査で繰入が認められなかった場合は、その債権を一括評価金銭債権として損金算入することは可能です。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れをするための手続

Q.個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れに当たって、所轄税務署長等に対する事前承認申請などの手続が必要ですか。

A.個別評価金銭債権に関する貸倒引当金の繰入れの際、所轄の税務署長等への事前承認申請は不要です。しかし、特定の条件が当てはまる場合(これは法人税法施行令第96条第1項各号で説明されています)、重要なことが起きたと認識するためには、以下の2種類の書類の保存が必要です。

1. 法人税法施行令第96条第1項各号で述べられた特定の事実が起こったことを証明する書類。

2. 取立てや弁済が見込める場合、その金額を明確に示す書類。

これらの書類が保存されていない場合、該当する事実が起こったとは見なされませんので、注意が必要です。ただし、これらの書類が保存されていなかったとしても、それについてやむを得ない事情が認められる場合、税務署長はこのルールを適用しないことも可能です。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金のあらまし

Q.税法の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金について、そのあらましを説明してください。

A.個別評価金銭債権に係る貸倒引当金とは、会社が回収が難しいとみなされる金銭債権に対して、将来の損失を見越して設定するお金のことです。法人税法に基づき、このような金銭債権(例えば、返済の延期や分割払いが行われる場合など)の一部が損失の見込みとなる場合に、その損失に備えるための金額を計算し、その上限を定めています。ただし、企業間で完全な支配関係がある場合(例えば、完全な子会社や親会社への債権)は、この貸倒引当金の対象からは外されます。

具体的には、債務者が経済的に困難に陥り、返済が難しくなる様々な状況に応じて、設けるべき貸倒引当金の額が計算されます。これには、事業の失敗、経済状況の急変、災害による影響などがあります。また、外国政府や中央銀行などに対する債権が、長期の滞納により価値が大きく低下した場合にも、その回収見込みの少ない部分に対して貸倒引当金を設定する必要があります。これらの措置は、会社の財務状態をより正確に反映させ、未来のリスクに備えるためのものです。

適格組織再編成があった場合の貸倒引当金の引継ぎ

Q.法人が適格組織再編成を行った場合、貸倒引当金の新設法人又は承継法人への引継ぎはどのようになりますか。適格組織再編成の区分別に説明してください。

A.法人が適格組織再編成を行った場合、その区分によって貸倒引当金の引継ぎ方法が異なります。適格組織再編成ごとに、以下のように貸倒引当金を引き継ぐことになっています。

– 適格合併や適格現物分配(残余財産の全部の分配に限り)の場合、適格合併の前日や残余財産の確定の日が属する事業年度で損金に算入された個別貸倒引当金勘定の金額や一括貸倒引当金勘定の金額を引き継ぎます。

– 適格分割等(適格分割、適格現物出資や適格現物分配(残余財産の全部の分配を除く))の場合、適格分割等の日が属する事業年度で損金に算入された期中個別貸倒引当金勘定の金額や期中一括貸倒引当金勘定の金額を引き継ぎます。

「個別評価金銭債権」が適格分割等で分割承継法人などに移転される場合、それに関する貸倒引当金は、事業年度終了時の直前の時点で計算された「個別貸倒引当金」として損金に算入された金額です。また、「個別評価金銭債権」の一部だけが移転する場合は、移転しない金額は計算に入れないものと考え、適格分割等に関わる書類を税務署に提出する必要があります。提出する書類には、法人名や納税地、法人番号、代表者の氏名、関連法人の情報、適格分割等の日、貸倒引当金勘定の金額や計算明細、その他参考事項が含まれます。

貸倒引当金を繰入れできる法人

Q.貸倒引当金の繰入れが認められる法人の範囲について説明してください。

A.貸倒引当金が適用できる法人とその対象となる金銭債権は次の通りです。まず、適用される法人は、①中小法人、②法律で定められた銀行、③法律で定められた保険会社、④特定の内国法人(銀行や保険会社に準ずるもの)、そして⑤金融取引に関わる金銭債権を持つ特定の内国法人です。中小法人とは、事業年度が終了した時に資本金や出資金が1億円以下、もしくは資本や出資を持たない法人のことを指します。ただし、資本金または出資金額が5億円以上の大法人、特定の相互会社、または法人税を扱う信託の受託法人と完全支配関係にある法人は除外されます。公益法人や協同組合、人格を持たない社団も含まれます。貸倒引当金の対象となる金銭債権には、特定のリース資産の売買から生じる金銭債権を含むものがありますが、債券に表示されるべきものは除かれます。

貸倒引当金の財務諸表での表示方法

Q.税法上の貸倒引当金の財務諸表での表示方法について教えてください。

A.税法上、貸倒引当金は、間接控除方式と直接控除方式のどちらで表示しても問題ありません。ただし、直接控除方式を選択した場合、その金額は貸借対照表の注記に記載する必要があります。法人税基本通達には、取立不能の見込額が財務諸表の注記で確認でき、貸倒引当金勘定への繰入れが総勘定元帳や確定申告書で明らかにされている場合、その見込額は貸倒引当金勘定への繰入れとして扱います。

貸倒引当金の計上においては、前年度末の額の取崩しと当年度末の額の繰入れの記録が必要です。この取崩しと繰入れの金額は、会計上の損益計算書には反映されず、明細書にその相殺前の金額に基づく繰入れ等を明らかにする必要があります。税務上は、相殺前の金額に基づき繰入れ及び取崩しが行われたものとして扱われます。具体的に、相殺前の金額を確定申告書添付の別表に記載すればよいとされています。

保有している上場株式を退職給付信託に拠出した場合の税務上の取り扱い

Q.保有している上場株式を退職給付信託に拠出した場合、税務ではどのように取り扱われますか。

A.ある会社が退職給付信託に自社の株式を拠出した場合、その取引は法人税法上特別な扱いを受けます。会計上では、株式の拠出は時価で行われ、退職給付引当金や退職給付信託設定益などの仕訳が行われますが、税務上これらの仕訳は認められません。具体的には、拠出された株式は拠出前の帳簿価額のまま会社が保有しているとみなされ、退職給付信託設定益も存在しないとされます。さらに、信託財産から得られる収入(例えば配当金)は、実際に退職給付として支払われるまでは、会社に課税されます。配当金に対しては、会社が受け取ったとみなされ、税法上特定の控除を受けることが可能です。また、信託財産から支払われる信託報酬も会社が負担したものとして扱われます。このように、退職給付信託に株式を拠出すると、税務上はかなり特殊な処理が必要になります。

税法上の引当金が貸倒引当金と返品調整引当金だけであることについて

Q.税法は引当金として貸倒引当金と返品調整引当金の二つだけの繰入れを認めていますが、企業会計原則注解18「 引当金について」には11の引当金が例示列挙されています。この相違の理由と、これに対する企業の対応方法を教えてください。

A.税法では、引当金として認められるのは貸倒引当金と返品調整引当金の二つだけです。一方で、企業会計原則注解18では、未来に発生する可能性が高い特定の費用や損失に備えて費用を計上するために11種類の引当金を例示しています。これらには、製品保証引当金や賞与引当金などが含まれます。税法と企業会計原則のこの相違は、税法が課税ベースを拡大するために引当金制度を緩和してきた歴史があるからです。特に貸倒引当金の計上が制限されたり、返品調整引当金が廃止されたりしています。このような状況では、企業は会計上必要な引当金を計上し、税法で規定されていない引当金は申告加算調整によって税務上の調整を行う必要があります。これによって、会計上は引当金を適切に反映しつつ、税法上の要件にも対応できます。