偶発債務に対する一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れの可否

Q.割引手形や裏書譲渡手形に対して一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れが可能ですが、連帯保証している取引先の銀行借入金に関する保証債務についてはどうでしょうか?

A.割引手形や裏書譲渡手形のような金銭債権は貸倒引当金の繰入れの対象となりますが、取引先の銀行借入金に連帯保証している場合、連帯保証だけでは相手方に対する求償権が生じていないため、貸倒引当金の繰入れ対象にはなりません。ただし、連帯保証に基づいて代位弁済を行い、取引先に対する求償権を得た場合、その求償権は銀行の取引先に対する貸付金の代わりとなり、一括評価金銭債権に関する貸倒引当金の繰入れの対象になります。ただし、将来保証債務の履行により損失が発生する可能性が高くその金額を合理的に見積もることができる場合には、債務保証損失引当金の設定が必要ですが、税法上は認められていないため、設定した場合は申告加算調整が必要です。

事業年度終了日が休日の場合の受取手形の取り扱いと貸倒引当金の繰入れ

Q.事業年度終了の日が休日の場合、その日を満期日とする受取手形は、事業年度終了の日または交換日のどちらで取立ての処理をすべきですか?また、一括評価金銭債権に関連する貸倒引当金の繰入れは、交換日に受取手形が計上される場合のみ認められ、事業年度終了日に取立ての処理をする場合は認められないのでしょうか?

A.事業年度終了の日が休日の場合、その日を満期日とする受取手形の交換日は翌営業日となりますが、手形の取立て処理には以下の二つの方法があります。一つ目は期末日処理法で、実質的に手形を持っていると見なし、事業年度終了日に取立て処理を行う方法です。二つ目は交換日処理法で、手形法に基づき、満期日の翌営業日に取立て処理を行う方法です。多くの場合、交換日処理法が選ばれていますが、割引手形や裏書譲渡手形の場合は、法的に消滅しない手形遡求債務を回避するために、必ず交換日処理法を用いる必要があります。ただし、期末日処理法を使用したとしても、実際の決済が行われるまで手形債権及び元の売掛債権は残り、事業年度終了日を満期日とする受取手形を一括評価金銭債権として貸倒引当金の繰入れが可能です。この場合、受取手形の金額は申告書別表の「一括評価金銭債権の明細」欄に記載されます。

事業年度終了の日までに現金化されていない小切手に対する一括評価金銭債権に係る貸倒引当金

Q.事業年度終了の日までに小切手で回収した売掛金が翌事業年度に現金化された場合、その小切手の金額を一括評価金銭債権として貸倒引当金の繰入れをすることはできますか?また、その小切手の中に、先日付小切手があった場合はどうですか?

A.小切手は、法律によりいつでも現金化できることが定められており、会計上は売掛金を回収したと同じ扱いになります。そのため、事業年度の終了時にまだ現金化されていない小切手の金額を一括評価金銭債権として貸倒引当金に繰り入れることはできません。先日付小切手についても、受取人は小切手に記載された日を待たずに銀行に提示して現金化することができ、法的には一般の小切手と同様です。そのため、先日付小切手も特別に扱う必要はありません。実際に、事業者間で、先日付小切手に関して提示を待つという約束が守られがちですが、会計処理上は売掛金などの債権を先日付小切手によって回収した場合、そのまま売掛金として処理するのが適切とされています。具体的には、法的根拠のある一般の小切手と同じ扱いで処理する、振出人との約束で振出日まで取立てをしないために受取手形と同じ扱いで処理する、または受取時に何も処理せずに振出日まで売掛金のままとする方法を採ることがあります。会計処理は実質を重視する必要があるため、先日付小切手を受け取った場合に、振出日まで売掛金のままとする処理が推奨されます。

括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定の対象

Q.次のような債権は、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定の対象になりますか。

A.一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定の対象となるのは、売掛金、貸付金やそれらに似た金銭債権です。質問された債権の中で、敷金、手付金、前渡金、前払費用、未決済デリバティブ取引関連の差金勘定などはこれには該当しません。

具体的には、敷金は不動産を借りる際に賃貸人に保証として提供された金銭であり、営業取引から生じた金銭債権ではありません。手付金や前渡金は資産取得や費用支出に充てられるため、金銭債権ではなく、商品やサービスの提供と引き換えに支払うものです。前払費用も将来精算されるための一時的な支出であり、金銭債権とは見なされません。未決済デリバティブ取引に関する差金勘定も、金銭債権とは扱われません。

一方で、簿外貸付金、政府機関への売掛金、確実な担保や保証人がある貸付金、立替金は、金銭債権に該当し、一括評価金銭債権に基づく貸倒引当金の設定の対象となります。ただし、不正行為から生じた貸付金は除外されます。

未収収益及び未収入金に関する貸倒引当金の繰入れ

Q.未収収益及び未収入金の中で、一括評価金銭債権に関する貸倒引当金の設定対象になるものとならないものの区分について説明してください。

A.未収収益とは、契約に基づきサービスを提供し続ける状況で、すでに提供したサービスに対してまだお金を受け取っていないものを指します。例えば、賃貸契約などから期末日までに生じた未収利息、未収地代、未収家賃、未収手数料などがこれに当たります。一括評価金銭債権は、売掛金、貸し付けたお金その他これらに準じる金銭債権を指し、未収収益は基本的にこれに含まれ、未収保管料、未収地代家賃、貸付金の未収利子が例として挙げられます。しかし、預貯金や公社債の未収利子、未収配当などは売掛債権には該当しないとされます。これは、元本が売掛債権等に当たるか否かで判断されるためです。所有株式の未収配当や保証金の未収利子も同じ理由で売掛債権等には該当しません。

未収入金とは、継続的なサービス提供契約以外の契約から生じたものを指し、原則として売掛債権等に該当します。これには未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収損害賠償金、保証債務の求償権が含まれます。ただし、未収入金に該当しても、例えば雇用保険法などに基づく給付金の未収金や仕入割戻しの未収金は売掛債権等には該当しません。これらは給付の原因となる事実があった事業年度の益金に算入されるもので、売掛債権等とは異なる性質を持っています。

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金のあらまし

Q.税法の一括評価金銭債権に係る貸倒引当金について、そのあらましを説明してください。

A.一括評価金銭債権に関連する貸倒引当金についてですが、これは内国法人が保有する売掛金や貸付金など、個別評価されない金銭債権(一括評価金銭債権と呼ばれます)への貸し倒れ損失の見込額を各事業年度ごとに損金として計上するために、貸倒引当金勘定へ繰り入れる金額のことを指します。法律では具体的にこのような処理を認めています。ただし、個別評価される金銭債権はこの一括評価の対象からは除外されます。これらの債権は別の方法で管理し、報告する必要があります。また、計算方法に関しても、特定の式に基づき、貸倒実績率を用いて貸倒引当金の繰入限度額が定められています。この比率は過去3年間のデータを基に算出されます。ただし、100%子会社や親会社など完全支配関係にある法人に対する債権は、この一括評価の範囲外となり、貸倒引当金の対象とはなりません。

手形交換所による取引停止処分と個別評価金銭債権への影響

Q.手形交換所による取引停止処分があった場合、得意先から受けた手形が事業年度終了日までに不渡りとなり、その取引停止処分が翌事業年度以降にずれ込んだ場合、どのように扱われますか?

A.「手形交換所による取引停止処分」は、個別評価金銭債権に関連する貸倒引当金の計上が可能な事由の一つとして列挙されています。もし得意先から受けた手形が事業年度の終了日までに不渡りとなり、かつその事業年度に関わる確定申告書の提出期限(延長されている場合はその延長期限も含む)までに、その得意先に対して手形交換所から取引停止処分が行われた場合、その事業年度で貸倒引当金の計上を行うことができます。この場合、得意先に対する金銭債権の50%に相当する金額を貸倒引当金として損金処理することができることになります。同様に、電子記録債権についても事業年度の終了日までに支払いがなく、確定申告の提出期限までに電子債権記録機関からの取引停止処分があった場合、上記と同様の処理が適用されます。

法人税基本通達11-2-9の(2)の意味

Q.法人税基本通達11-2-9の(2)で示している「実質的に債権とみられない部分の金額」とは何を意味していますか?

A.法人税基本通達11-2-9の(2)では、売掛金や受取手形と買掛金が存在し、買掛金の支払いのために他から取得した受取手形を裏書譲渡した場合に、その受取手形の金額(支払期日が来ていないものに限る)に相当する金額は、実質的には債権とはみなされない、と説明しています。具体的には、仮にある会社(A社)に対して売掛金として30万円、買掛金として10万円がある場合を考えてみましょう。そして、別の会社(B社)から受け取った売掛金に対する受取手形10万円を、A社に対する買掛金の支払いのために裏書譲渡するとします。この操作により、A社への買掛金は会計帳簿上で消えることになりますが、実際には受取手形が期日に決済されるまで、A社への買掛金としての債務は残ります。結果として、A社に対する貸倒引当金の設定対象となる金銭債権の額は、裏書譲渡後も変わらず20万円(売掛金30万円ー既存の支払債務10万円)となります。この例では、裏書譲渡によって見かけ上買掛金が消えても、実質的には債権とみられない既存の支払債務が残るため、貸倒引当金の設定対象となる金額に変化はないと解釈されます。

人的保証を受けている金銭債権に対する個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ

Q.人的保証を受けている金銭債権に対する個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れは、1号、2号及び3号のいずれの規定によるものもできないのですか。連帯保証かどうかで異なりますか。

A.人的保証を受けている金銭債権は、仮に債務者が債務不履行になっても連帯保証人から代わりにお金をもらうことが可能です。そのため、この債権の回収の見込みは、保証人の信用度によって変わります。つまり、貸し倒れの引当金をどう扱うかは、保証人の支払い能力を確認した上で判断します。

1号、2号、3号の各規定に基づく貸倒引当金の考え方は次の通りです。1号は担保権の実行などから金を回収できる見込みがある部分について、2号には特別な規定がなく、3号は金融機関や保証機関の保証債務履行などから回収の見込みがある部分に関するものです。

2号に関して、その規定下の金銭債権では、回収の見込みがない部分を一定の金額ではなく実質的な算定で考えます。人的保証の有無やその履行からの回収見込みも含めて考慮することから、特に明示されていません。

人的保証による回収可能額の算定では、保証債務の存否に争いがある場合や保証人が行方不明で回収不能、保証人に経済的な困難があるなどの状況では、回収可能額を考慮しなくても良いケースがあります。

最後に、人的保証が連帯保証かどうかによる違いですが、これは回収の見込みの判断に影響しません。連帯保証人の場合、保証人への直接の請求が可能となり、代位弁済を受けやすくなりますが、保証人の支払い能力がなければ回収は難しく、結局は保証人の経済力によって判断されます。

損失見込みの発生事由が2以上ある個別評価金銭債権に係る貸倒引当金

Q.決算の中小法人がA社に対して1,000万円の債権を持っており、A社が再生手続開始の申立てを行い、再生計画認可により債権額のうち400万円が切り捨てられ、残り600万円が6年間にわたり年100万円ずつの賦払いで弁済されることになった場合、令和6年3月期における個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰り入れ限度額はいくらになりますか?また、繰入限度額の多い方法での繰り入れは問題ないでしょうか?

A.このケースでは、再生計画認可の決定により、債権額600万円に対して賦払いによる弁済が決まっているので、法人税法の規定により、1号に該当します。つまり、5年以内に弁済されない100万円だけが、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰り入れ可能額となります。したがって、600万円全額に対して1号の適用があり、500万円は5年以内に弁済されるため、2号または3号の規定を用いて貸倒引当金を繰り入れすることはできません。法人税法では、この残り500万円は個別評価金銭債権とはみなされないため、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰り入れもできません。ただし、2号の適用は任意であるため、2号を受けずに3号の適用を受けることは可能です。