貸付けの規模が小規模な貸家住宅の取壊し

Q.不動産所得のある個人が、老朽化した2棟の貸家を取り壊し、そこに新しい貸家を建てた場合、取り壊した2棟の建物の未償却残額と取壊費用は、不動産所得の計算上必要経費に算入されますか。

A.不動産所得を生じる事業で使用されていた建物等の固定資産を取り壊し、除去、または失われたことによる損失は、保険金などで補填される部分や資産の売却などによって生じた損失を除いて、その損失が発生した年の不動産所得の計算において必要経費として扱われます。この場合、取り壊しの目的が新しい貸家の建設であっても、事業用固定資産の取り壊しによる損失は目的に関わらず同様に取り扱われます。取り壊しによる必要経費は、(取り壊した資産の未償却残額 – 発生資材の価値)プラス取り壊し費用で計算されます。ただし、個人が1棟だけ貸しているなど小規模な貸家の場合は、これらの損失は「事業用に供されている固定資産」に関するものではないため、上記と異なる扱いになるので注意が必要です。この場合、不動産所得の計算上必要経費として扱われる損失は、その年の控除前の不動産所得を限度としています。また、建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判断には、外形基準があり、アパートなどは独立した室数が10以上、独立家屋の貸付けは5棟以上がそれに該当します。

事業用固定資産の取壊損失

Q.店舗を取り壊して新築した場合、帳簿価額が250万円、取壊費用が40万円、廃材の処分価額が20万円、新築建物の建築費用が1,200万円である状況での取壊しに関する処理を教えてください。

A.事業用固定資産を取り壊し、除却、滅失などの理由で生じた損失は、資産を譲渡したり、譲渡に関連して生じた損失を除いて、事業から生じる不動産所得、事業所得、山林所得の計算において必要経費として考慮できます。この取り壊しは災害によるものでも、自己の判断で行うものでも含まれます。したがって、店舗が古くなって取り壊す場合、取り壊しによる損失や取壊費用などの扱いは以下の通りです。まず、古い店舗の未償却残額から取り壊した建物の廃材の処分見込み価額を差し引いた金額に取壊費用を加えた合計を、その年の必要経費として計上します。そして、取り壊した建物の廃材を処分した場合、実際の処分価額を収入とし、処分見込み価額を取得価額として譲渡所得を計算します。質問の状況では、廃材の処分見込み価額を20万円として問題ありませんので、(250万円 – 20万円) + 40万円 = 270万円を必要経費に算入します。

居住用建物の取壊しによる損失

Q.事業を開始するに当たって、今まで居住していた建物を取り壊してその敷地に工場用建物を建てたいと思っています。この場合、その居宅の取壊しによる損失及び取壊し費用の額は、新築する工場用建物の取得価額に算入して減価償却の対象とするのですか、それとも開業した事業から生ずる事業所得の経費に算入するのですか。

A.ご指摘の居住用建物を取壊すことによる損失や費用は、新たに建設する工場用建物のコストにも、事業所得から差し引く経費にも含めることができません。もし、建物の取壊しが土地を売却するために行われるものであれば、その損失や費用は土地の売却経費として差し引くことが可能です。これは、建物が居住用であっても事業用であっても同じ扱いとなっています。しかしながら、売却目的以外で取り壊した場合、事業用建物についてのみ、損失を事業所得計算上の資産損失として経費に算入することが認められています。非事業用資産、たとえば居住用の建物の取壊しによる損失は、この扱いにはなりませんし、新規建設する事業用建物のコストに加えて減価償却の対象とすることもできません。また、このような損失は「災害」や「盗難」または「横領」によるものではないため、雑損控除の対象にもならないことに注意が必要です。

事業用資産の有姿除却

Q.私は鉄工業を営む青色申告者で、工場内に受注がなく全く稼働していない機械設備があります。不景気で将来再び受注があるかどうか分からないため、除却したいと考えています。しかし、取り除くのに多額の費用がかかるため、そのままの状態で除却処理をしたいのですが、認められますか?

A.固定資産の耐用年数を過ぎたり、使用価値がなくなったとしても、その除却や廃棄に多額の費用がかかる場合や、僅かながら再使用の可能性があるために保留している場合があります。このような状況であっても、ただ放置しているだけや、わずかな再使用の可能性のために保有していることが除却処理を認めない理由になるのは現実にそぐわないことです。従って、次のような資産については、そのままでも未償却残額から処分見込価額を差し引いた金額を必要経費に算入できます。1) 使用を停止し、今後通常の方法で事業に利用する可能性がないと認められる固定資産、2) 特定製品の生産用に専用されていたが、その製品の生産中止により将来使用される可能性がほとんどない金型等です。しかし、質問の場合、景気が回復すればいつでも使用を再開する可能性があるため、除却にかかる費用だけが理由で現状のまま除却処理することは認められません。

死亡した場合の繰延資産の未償却額

Q. 令和元年9月から洋菓子小売業を営んでいた父が令和5年4月に死亡し、事業を引き継ぎました。父は店舗を賃借する際に支払った保証金の20%が返還されないため、この部分を繰延資産として5年間償却していましたが、父が亡くなった時に未償却の繰延資産が残っていました。この未償却の繰延資産を父の準確定申告で全額資産損失として必要経費に算入できるか。

A. 繰延資産は、特定の費用がその支出日から1年以上の効果を持つ場合に一定の条件で認められるものです。しかし、その支出した人の死亡によって効果が失われるかどうかで取り扱いが異なります。死亡によって効果が失われる繰延資産の場合、未償却額を資産損失として必要経費に算入できます。一方、効果に影響がない場合は、事業を引き継ぐあなたが償却を続けます。事業が承継されない場合は、未償却の繰延資産を資産損失として必要経費に算入することができます。

償却期間経過後における開業費の任意償却

Q.7年前に病院を開業した私は、これまで赤字だったため開業費の償却額を必要経費に算入していませんでした。今年黒字になったことで、本年分及び翌年分の確定申告においてこれらの開業費を必要経費として算入したいのですが、認められますか?

A.開業費は繰延資産とされ、これを60ヶ月にわたり均等に償却するか、あるいは任意で償却することが可能です。任意償却の場合は、償却の下限がないため、費用を支払った年に全額を償却することも、まったく償却しないこともできます。さらに、費用発生後60ヶ月が経過した後でも、未償却の開業費を必要経費として算入できる特別な規制はありませんので、いつでも必要経費として償却することが可能です。ただし、対象となる開業費の内容や金額が過去に必要経費として算入されていないことを明確に記録しておく必要があります。

業務開始前に支出した地代

Q.昨年10月から建築を開始した貸ビルに関して、昨年10月から本年1月まで支払った地代は所得計算上どう扱えばいいですか?私は会社役員で、所得は給与所得のみです。

A.不動産貸付業をすでに行っている人が、新たにビルを建てるために土地を借りて地代を支払った場合、その地代は不動産所得の必要経費として扱われます。これは、ビル建築中でも不動産貸付業の拡大と見なされるからです。しかし、不動産貸付業を新たに開始する場合には、建築期間中に支払った地代は業務開始を前提とした支出として、将来得られる不動産収入から控除すべきものとみなされます。ですので、これらは「新たな業務を開始するまでに特別に支出した費用」として、繰延資産として扱うことが適切です。借りた土地の地代を建物の取得価額に含める考え方もありますが、建物の取得に直接関連がある借入金の利子とは異なり、地代と建物取得の間に実質的な関連が無いため、合理的ではありません。

医師会への入会金

Q.大学病院で勤務医として働いていたが、親の世話のために地方で診療所を開業し、地元の医師会に加入することになり、入会金300万円を支払った。この入会金は、脱会しても返還されないが、この支払いを事業所得の計算上、必要経費に含めることはできるか?

A.医師会などの同業者団体への入会金には、譲渡可能な場合や脱会時に返金がある出資の性格を持つものと、そうでないものがあります。出資の性格を持つものは資産として計上しますが、出資の性格を持たないもので、入会後に団体からのサービス提供が続くものは繰延資産として扱います。そのため、質問の医師会への入会金は、返還されず譲渡もできないため繰延資産として扱われ、300万円は償却対象となります。加入金の償却期間は5年で、均等に償却されます。

建物の所有者に代わって支払った立退料

Q.私は事業拡張のため家主と隣の店舗の賃借交渉をし、結果として家主が隣の店舗の賃借人に支払う立退料を私が肩代わりすることになりましたが、この立退料を事業遂行上必要な費用として事業所得の計算上、必要経費に算入しても良いですか?

A.賃借人を立ち退かせるために支払った立退料は、原則としてその年の必要経費に算入できますが、例外として土地や建物を譲渡する場合があります。あなたのケースでは、建物の賃借権を得るために家主に代わって立退料を支払ったため、この支出は賃借するための権利金とみなされます。権利金は繰り延べ資産として取り扱われ、所定の期間にわたって償却することになるため、あなたが支払った立退料も同様に繰り延べ資産として償却処理する必要があります。

返還されない敷金

Q.喫茶店を開業するためにビルの1室を借り、権利金100万円、敷金300万円、仲介手数料5万円を支払いました。契約期間は3年で更新可能です。都合による解約時に敷金の2割が返還されない場合、この経理処理を教えてください。

A.喫茶店を開業する際に支払った権利金、敷金の一部、仲介手数料などの費用は経理上特定の方法で処理します。まず、返還されない敷金の60万円(300万円の20%)は、権利金と同じ扱いで繰延資産に分類されます。繰延資産は、その効果が及ぶ期間に沿って費用として償却していきます。仲介手数料の5万円は、その支払った年の必要経費として計上できます。立ち退き時に返還されない敷金が契約によって変動する場合、返還されないことが初めから確定している部分(例えば10%など)を権利金として扱います。繰延資産の償却期間は、建物の賃借契約に応じて異なり、たいていの場合は5年間となりますが、特定の条件下では建物の耐用年数の70%に相当する年数で計算します。この場合の償却費は、(100万円 + 60万円)を5年間で分割して計算します。仮に権利金等の支出が一契約について20万円未満の場合、その全額を支出した年の必要経費に算入することが可能です。